
[人数]2人(男1/女1) [想定時間]10分 [カテゴリー]風変わり
【あらすじ】
言葉選びが独特でいまひとつかみ合わない高校生2人の会話。高校生2人はこれから始まる花火を見るためにビルの屋上に忍び込む。どうやらお互い相手のことを想っているが、言葉選びが独特でなかなか伝わらない。
【登場人物】
吉田(女)
高橋(男)
ビルの屋上にやってきた、高校生の高橋と吉田。
吉田 高橋くん大丈夫? こんなとこ入って。
高橋 平気平気、(手招きする)
吉田 (恐る恐るついていきながら)「関係者以外立入禁止」って書いてたよ。
高橋 大丈夫だって。俺一回も怒られたことないもん。
吉田 うわあ、たっか。
高橋 特等席だろ? ここなら人ごみに埋もれずにはっきり花火見えるんだよ。
吉田 ビルの屋上なんて初めてのぼった。
高橋 いいだろ。
吉田 うん。人がゴミのようだね。
高橋 ……。
吉田 あ、ごめん。映画のセリフパクったみたいになっちゃった。でもあるじゃない? ダジャレ言おうと思ってなかったのにダジャレ言っちゃったみたいな。「このイスいいっすね」みたいな。だからね、今のはパクったわけじゃなくて、自分が思ったことを素直に言ったら自然とかぶっちゃっただけだから。
高橋 ってことは今素直に人がゴミみたいだなって思ったんだ。
吉田 うん。だってゴミみたいじゃない?
高橋 吉田さんってさ、
吉田 うん。
高橋 なんか、表現が独特だよね。
吉田 うそ?
高橋 いやほんと。
吉田 うそでしょ。高橋くんの方がよっぽど独特だよ。
高橋 うそ?
吉田 うん。
高橋 嘘だよ。吉田さんにそんなこと言われるなんて。唐揚げ弁当だと思って蓋開けたらすきやき弁当だったみたいな感じ。
吉田 それそれ。
高橋 え?
吉田 その唐揚げ弁当とかすきやき弁当とか、独特だよ。
高橋 ふつうでしょ?
吉田 ふつうじゃないって。右の鼻かんでたのに左から鼻水出てきたみたいな。
高橋 それ。
吉田 え?
高橋 なにそのたとえ。
吉田 え、普通のたとえでしょ? 言わない?
高橋 言わないよ。鼻水王子じゃないんだから。
吉田 それ。
高橋 え?
吉田 なに鼻水王子って?
高橋 いや、え? 言わない? なんとか王子って。
吉田 聞いたことない。
高橋 そっか……。
沈黙。
吉田 明日って、おやすみ?
高橋 土曜日は学校休みだよ。
吉田 そうじゃなくて、高橋くんは、明日はなにかするの?
高橋 ああ、休もうかな。
吉田 休む……じゃあ私も休もうかな。そしたら同じだね。
高橋 ん? うん。
吉田 ……高橋くんはさ、進路どうすんの?
高橋 まー進学かな。
吉田 どこ?
高橋 まあこの辺で行けそうなところ。吉田さんは?
吉田 私もまだ決めてないけど、この辺で行けそうなところにしようかな。
高橋 そっか。
吉田 学祭楽しかったね。
高橋 ああ。吉田さん、ダンスめっちゃかっこよかったよね。
吉田 ほんと?
高橋 うん、まっちゃんかと思った。
吉田 ……誰?
高橋 あ、俺の中学んときのクラスメイト。
吉田 ……へー。
高橋 もう夏も終わるなぁ。
吉田 そうだね、将棋でいう97手目みたいな。
高橋 あのさ、花言葉ってあるじゃん。
吉田 うん。
高橋 花火の花言葉って知ってる?
吉田 え、知らない。花火って花言葉あるの?
高橋 いや、知らないからきいた。
吉田 ……高橋くん、やっぱ独特。
高橋 嘘でしょ?
吉田 ……なんか、言葉って難しいよね。
高橋 んなことないよ、俺、漢検2級だし。
吉田 どうでもいいことはスルスル言えるのに、本当に言いたいことはヌルヌルしか言えない。
高橋 ……ヌルヌル言うってどんな感じ?
吉田 え……スルスルじゃない感じ。
高橋 ラーメンで言えば、細麺じゃなくて太麺みたいな。
吉田 高橋くんのたとえ全然わかんない。
高橋 つまり、見つめあうと素直におしゃべりできないってことでしょ。
吉田 桑田佳祐か。
高橋 クワタ……?
吉田 え、知らない? 知らないで言ったの?
高橋 なにを?
吉田 「見つめあうと素直におしゃべりできない」って。
高橋 いや、思ったことをそのまま言ったんだけど。え、そのクワタって人が言ってたの? 誰? 哲学者?
吉田 高橋くんすごいね。桑田佳祐と同じ才能を持ってるかもしれない。
高橋 そっか、そのクワタって人知らないから嬉しくもなんともないけど。
高橋、吉田に恐る恐る触れようとするが、
吉田 高橋くんさ。
高橋 なに?
吉田 あー……なんて言えばいいかな。
高橋 ?
吉田 えーっと、高橋くんって、いいなって思ってる人いるの?
高橋 いいな? あー……前島密(まえじまひそか)とか?
吉田 ……誰?
高橋 日本史でやったじゃん。日本で初めて郵便制度を作った人。いいなーって思うよね。
吉田 あー、そうなんだ。私はね、高橋くんのこと、いいなって思ってると言っても過言ではないと言ったら、嘘になるとも言えないんだけど。
高橋 あ、もう途中からわかんなくなっちゃった。
吉田 数学でやったじゃん。論理と集合。
高橋 ああ、あったかも。俺、きゅうりと同じくらい苦手なんだよね。
沈黙。
吉田 花火まだかな。
高橋 うん、あと砂時計2回ひっくり返すくらいかな。
吉田 私ずっと疑問だったんだけどさ、日時計って影で今何時かわかるじゃない? 砂時計ってどうやって今何時かわかるの?
高橋 え? いや、あれはストップウォッチみたいなもので、
吉田 え、ストップウォッチって今何時かわかるの?
高橋 ……なんの話してるかわかんなくなっちゃった。
吉田 高橋くんは難しい話苦手なんだね。
高橋 ……吉田さんさ、
吉田 うん。
高橋 あの、この際だから、回りくどい言い方じゃなくて、単刀直入に言うけどさ。
吉田 ……。
高橋 お墓に入りたくない?
吉田 お墓?
高橋 うん。
吉田 いや?
高橋 そっか……じゃあ、パンツ洗いたくない?
吉田 ……まあ洗いたいか洗いたくないかって言われたら洗いたいかな? 洗わなかったら臭いし。
高橋 (照れる)そっか、洗いたいんだね。
吉田 どういうこと?
高橋 え、伝わってない?
吉田 なにが?
高橋 あれ、直球で言ったと思うのに。え、俺のことどう思う?
吉田 今の感じだと、ちょっと変態なサイコパスなのかなって。
高橋 ……サイコパスっていうのは、オクトパスの仲間?
吉田 いや、オクトパスはイカの仲間じゃない?
高橋 足の本数違うのに。
吉田 そっか。じゃあ、蜘蛛の仲間じゃない? 足8本だし。
高橋 なんの話?
吉田 私がききたい。
高橋 だからその……吉田さんって好きな食べ物ある?
吉田 あー、牛かな。
高橋 そっか。つまりさ、俺は牛なんだよ。
吉田 ……?
高橋 いや、待って。そうとは言い切れないか……だから逆だね。つまり、吉田さんは、豚なんだよ。
吉田 え……?(自分の手や体をみる)
高橋 わかってくれた?
吉田 それはつまり……私がブスみたいな……?
高橋 なんで?
吉田 いや、だって、豚って、
高橋 吉田さん、ダメだよそれは。豚って可愛いんだよ。見たことある? 映像とかじゃなくて本物の豚。本物の豚を見てブスとか言ったら、俺はたとえ吉田さんでも許さないよ。
吉田 ごめん……
高橋 あ、違う違う、今可愛いって言ったのはあくまで豚の話であって……あ、でもそれは吉田さんが可愛くないという意味では必ずしもなくて……
吉田 そういうこと……?
高橋 ……。
吉田 わかった。
高橋 ……。
吉田 つまり私にとっての牛が、高橋くんにとっての豚ってことだ。
高橋 そう!
吉田 私が牛が好きなように、高橋くんも豚が好きってこと!
高橋 そう!
吉田 ……だから、
高橋 だから?
吉田 なに?
高橋 あぁ!……なんで伝わらないんだろう。
吉田 なんかわかりそうでわからない。
高橋 難しいな。
吉田 でも……もしかしてこうかなってことがあるんだけど……もしそうだとしたら、私多分スクワットしながらもずくを食べてる気分。
高橋 ……どういう気分?
吉田 あ、でも、もしかしたら私の勘違いかもしれないし、それだったら、私、消火器から火ふいちゃう。
高橋 なんにもわかんない。
吉田 だから、私から言おうかな。
高橋 おう……。
吉田 言葉って難しいから、伝えたいことがちゃんと伝わるかわからないけど……つまりね、私が高橋くんに対してどういう感情を抱いているかって話なんだけど、
高橋 あ、
花火があがる。
高橋 はじまった。
吉田 おおお、めっちゃ綺麗。
高橋 た~まや~
吉田 たまやってなに?
高橋 知らないけど、そう言うんだよ。
吉田 へえ。た~まや~
高橋 ね、特等席でしょ?
二人、花火を見ている。
どちらともなく、手を握る。
二人、少し見つめあってから、二人で花火を見続ける。
――幕
作・小佐部明広
コサト公園『金曜日の結びかた』第3話

