
[人数]2人(女2) [想定時間]20分 [カテゴリー]コメディ
【あらすじ】
色々なところが「かぶって」しまう女二人の話。高校の時以来、8年ぶりに再会した明美と陽子。今日は同じく高校の時の同級生のユウ君を誘い、明美の家で飲み予定だ。ユウ君を待つあいだ明美と陽子が話しているが、次第に二人の色々なところが「かぶっている」ことがわかってくる。
【登場人物】
明美
陽子
明美の部屋。
明美が電話で話している。
明美 はいはい、あー電車遅れちゃった? あ、先始めてていいの? うん。……あぁ、ヨウコ来てるよ、今トイレ。うん、じゃあね、先始めてるよー、はーい、
明美、電話を切る。
陽子が現れる。
陽子 電話?
明美 ユウ君。
陽子 お。
明美 電車一本乗り逃して10分くらい遅刻だって。
陽子 そっか。早く会いたいなぁ。
明美 ヨウコ何年ぶり? ユウ君と会うの。
陽子 高校以来だから、8年?
明美 うわー、そんなんなるかー。
陽子 っていうか、この前アケミと会ったのだって8年ぶりだからね。
明美 ね。病院で会うなんてね。「ハシダ、ヨウコさーん」て呼ばれてんの聞いて、まさかって思ったら、
陽子 私もあんなとこでアケミに会うと思ってなかったよ。ってか、アケミ、ほんと変わったよね。
明美 言われる。高校んときちょっと太ってたから。
陽子 にしてもずいぶん変わったよ。
明美 ヨウコもけっこう変わったよ。
陽子 やっぱ8年も経つと、人間変わるんですな。
明美 よし、飲むか。
陽子 ユウ君は?
明美 先飲んでていいって。
陽子 ふうん、
明美 そうそう、今日は久々に三人集まるってことで、ちょっといいもん用意してきたよ。
陽子 お、実は私もいいもん用意してきたんだよね。
明美 マジ? じゃあせーので出してみよ?
陽子 いいよ。
明美 せーの、
明美 じゃーん、大吟醸ー!
まあまあ長い間。
明美 なんか、私とヨウコってこういうとこあったよね、
陽子 そうだっけ?
明美 「かぶる」んだよ。
陽子 ああ、
明美 ……ヨウコ、昨日の夜、何食べた?
陽子 カレー。
明美 私もカレー。
陽子 うわっ。
明美 おとといは?
陽子 (少し考えて思い出す)かつ丼。
明美 かつ丼。
陽子・明美 うわー。
明美 三日前は。
陽子 (思い出そうとして)もう覚えてない。
明美 私も覚えてない。
陽子・明美 うわー。
明美 高校んときからそう、なにかと「かぶる」んだよ私たち。
陽子 そう?
明美 そうだよ。高1んときだって、夏休みに遊園地行ったら、ヨウコの家族と会ったし、
陽子 あー、
明美 その次の正月だって、初詣でヨウコと会っちゃったし、
陽子 はいはい、
明美 修学旅行んときみんな私服じゃん? そんとき全く同じ服着ててペアルックみたいになっちゃってさ、
陽子 あー、言われてみればあったかも。
明美 それからしばらく、私たち付き合ってんじゃないかっていう噂流れたからね。
陽子 マジで?
明美 高校卒業した直後も、何度か会ったことあったし、
陽子 そうだっけ、
明美 そうだよ、あんた一回デート中に会って気まずかったんだからね、
陽子 なことあったっけ?
明美 せっかくいい雰囲気だったのにぶち壊してくれやがってさ。あのあと別れることになったんだかんね。
陽子 うわー覚えてなーい、
明美 私は死ぬまで忘れない。
陽子 まあ、くされ縁みたいなもんだよね。
明美 まあね、
陽子 でも、8年経って結局またこうやって出会ってるわけだし、なにかと縁があるんだな私とアケミは。
明美 私は嫌だけどね。
陽子 今は? 彼氏とかいるの?
明美 ふっふっふっふっふ。
陽子 え、なに「ふっふっふっふ」って。リアルで言ってる奴初めて見た。
明美 そろそろ結婚するのです。
陽子 えっ? アケミが?
明美 三年付き合ってる彼氏と。
陽子 マジか、いいなー。え、どんな人なの? なんて名前? 歳は? 仕事は? かっこいい?
明美 いっぺんに聞くなよ。
陽子 じゃあ名前名前。
明美 えぇ?
陽子 なんだよ教えろよ。
明美 恥ずかしいよ。
陽子 なんだよ気持ちわりぃな。じゃあなんて呼んでんの? その人のことなんて呼んでんの?
明美 (恥ずかしそうに)とっつぁん。
陽子 ……なんか、銭形のとっつぁんみたい。
明美 名前に「と」入ってんの。
陽子 へー、「トオル」とか「トシオ」とかってこと?
明美 まあまあ、
陽子 かっこいい?
明美 (照れて)……かっこいい。
陽子 うわぁマジかマジかぁ!(真剣に)あんた絶対騙されてるよ……。
明美 なんでだよ、
陽子 そんないい男、アケミと付き合わないよ。
明美 失礼でしょ。
陽子 目ぇ覚ませよ。
明美 私にもそんくらいの男できんの。
陽子 えーマジかマジか、写真は写真?
明美 ない。
陽子 ないの?
明美 写真撮られんの嫌がんだよ。
陽子 あーいるよねそういう男。私の彼氏もそうなんだよ。
明美 (かなり驚いて)彼氏いんの?
陽子 まあねー。
明美 えどんな人どんな人? なんて名前? 歳は? かっこいい?
陽子 いっぺんに聞かないで。
明美 じゃあ名前名前、
陽子 えぇ?
明美 あんたも恥ずかしいんじゃん、いいよいいよ、なんて呼んでんの?
陽子 (恥ずかしそうに)あっちゃん。
明美 なに恥ずかしがってんだよ。え、なんの仕事してんの?
陽子 いやいやそんな大した……、
明美 いいからいいから、
陽子 まあ、
明美 うん、
陽子 パチプロ?
明美 ……、
陽子 トータルマイナスらしいけど。
明美 ……ああー……なるほどねぇ……、
間。
明美 それにしても懐かしいね、高校時代。
陽子 早く会いたいなぁユウ君、
明美 私、ときどき会うんだけどさ、ユウ君変わってないよ。あのかっこかわいいまんま。あれに大人っぽさがプラスされた感じ?
陽子 最強じゃねえかよ!
明美 そうなのそうなの。そろそろ来てもいい時間んなんだけど、
陽子 ……今だから言うけどさ。
明美 なに?
陽子 私、実はユウ君と付き合ってたんだよね。
明美 ……は?
陽子 意外でしょ? 実は付き合ってたんだよね、高校んとき。
明美 いやいや、え? マジで言ってんの?
陽子 マジマジ。びっくりしたでしょ?
明美 いやいや、ないない絶対ない。何言ってんのお前、バカじゃねーの、失せろカスが。
陽子 否定しすぎだろお前。最後失せろカスって言ったよ。
明美 だってあんたクラスの超絶人気者のユウ君よ。ヨウコと付き合うなんてあるわけないじゃん。
陽子 いやいやホントホント。
明美 ……えいつ? いつ付き合ってたの?
陽子 高3の夏休み明けから卒業までだよ。
明美 ないない。
陽子 なんで、私が付き合ってたって言ってんじゃん。
明美 ありえないね。高2の冬から私と付き合ってたんだから。
陽子 ……は? ……いやいや、え? いつまで?
明美 卒業まで。
陽子 いやいやありえないありえない、ユウ君卒業まで私と付き合ってたから。
明美 ……。
陽子 え?
明美、落ち込む。
明美 ウソ……。
陽子 ……マジか、
明美 (気づく)うわ、
陽子 なんだよ?
明美 またヨウコとかぶった?
陽子 うわ、かぶった、
明美 こんなとこまでかぶせてくんなよ……。
陽子 私だってかぶりたくないよ……
少し間。
陽子 ……これからユウ君来んだよね?
明美 ……おお、
陽子 ちょっと問い詰めない……?
明美 え、どうすんの、だって、本当に二股だったら。
陽子 知らないよ、怒ればいんだよ、「こらーっ!」(なんか上手く怒れていないので違う起こり方)「こらーっ!」って。
明美 怒り方変だよ。
陽子 知らないけど、謝ってもらうしかないじゃん。
明美 だよな、やっぱそうだよな。
陽子、大声で何度も「こらーっ!」の練習。
明美も「こらーっ!」の見本を見せようとするが、やはり変な感じになってしまう。
チャイムの音。
陽子 え、ユウ君じゃない?
明美 ……ちょっと行ってくるわ、
陽子 おう、最初はなにげなくね、なにげなく、「お、おう、ユウ君どうしたの?」みたいな、
明美 なんで偶然なんだよ、来ることんなってんじゃん、
中村 なんでもいいから、ね、なにげなく。
明美、去る。
陽子 くそ、どうしよう……、「こらーっ!」こ、こ、「こらーっ!」
明美、素早く戻ってきて陽子の口を塞ぐ。
明美 静かに。
陽子 ……な、なに。ユウ君は?
明美 ユウ君じゃなかった。
陽子 は? じゃあ誰?
明美 隣の人。うるさいって。
陽子 あ……、
間。
陽子 ……ん、ちょっと待て。アケミ、付き合い始めたのいつって言った?
明美 え? 高2の冬だけど。
陽子 高3の夏休み明けから会ってた?
明美 いや、受験勉強忙しかったしあんまり。
陽子 ……アケミさあ、……実は別れてたんじゃない?
明美 は?
陽子 アケミと別れて私と付き合ったんじゃないの?
明美 ……はぁ? 別れてないし。
陽子 アケミの中ではそうかもしれないけど、ユウ君の中ではもう別れてたんだよ。
明美 いやいや……、
陽子 いずれにしてもだよ、高3の夏休み明けに私と付き合ってるってことはね、アケミはその時点で飽きられてたってことじゃないの?
明美 ……えぇ?
陽子 まあユウ君も、アケミより私の方がいいって気づいたんだろうね。
明美 それはない、絶対にありえない。
陽子 アケミより私のほうがいい女だし。
明美 ありえねえし。私のほうがいい女だし。
陽子 バカじゃない?
明美 バカじゃないし、私のほうがカワイイし頭いいし。イケメンと付き合えるくらいいい女だし。
陽子 それがありえないんだって。どうせイケメン彼氏とか見栄張ってるけど大したことないんでしょ?
明美 はぁ? 大したことあるし。カッコイイし!
中村 はぁ? じゃあちょっと特徴言ってみなよ、似顔絵作ってやるから。
明美 ヨウコ絵下手じゃん。
陽子 あんだよそういうアプリが。(スマホを操作する)ほら、顔どんな形?
明美 は?
陽子 どんな形?
明美 形とか言われても。
陽子 選べよこっから。
明美 ……これ。
陽子 目は?
明美 これかな。
陽子 おう、鼻は?
明美 しゅっとしてる。
陽子 口びるは?
明美 薄めかな。
陽子 おう、髪は?
明美 ツーブロック。
陽子 ……なんか私の彼氏と似てんな。
明美 ……。
陽子 え、あのさあ、口元にホクロない?
明美 あるある。
陽子 私の彼氏もある。
明美 ……え?
陽子 ……いやいや、まさか。
明美 八重歯じゃない?
陽子 うん、ヤエバ。
明美 ……。
陽子 ……やめてよマジ、こんとこまでかぶってくんなよ。
暁美 こっちだってかぶりたくないよ、
陽子 え、じゃ、じゃ、じゃあこれは? 首筋にやけどの跡。
明美 あ、ない、ないよそんなの、ない!
陽子 マジ? マジ?
明美 うん、ないよ。よかった、ない!
陽子 私の彼氏もないんだよ。
明美 ねえのかよ! ねえなら言うなよ!
陽子 え、名前は? 名前? アケミさっきとっつぁんて言ってたよね。名前、「トオル」とか「トシオ」とかでしょ?
明美 ううん、アキト。
陽子 ……うわうわうわうわ、
明美 え、だってヨウコあっちゃんって、あ……、
陽子 アキトだよ、私の彼氏もあきと、
明美 いやいやいや、
陽子 マジ、私こんなとこまでかぶりたくないよ、
明美 苗字違うでしょ苗字、
陽子 待って待って、……よし、じゃあせーので言おう、せーので、
明美 せーの、
陽子 待って待って、まだ準備できてない、
明美 準備もなにもないじゃん、
陽子 心の準備でしょ、
明美 知らないよ、せーの、
陽子 待って待って、落ち着こう、
明美 落ち着いてらんないよ、
陽子 やめよ、知らなきゃいいこともある、
明美 まだ同一人物かどうかわかんないじゃん、とっつぁんはそんな、二股するような男じゃないよ、
陽子 本当やめよう、
明美 やだ、せーので言えよ、
陽子 勘弁して……、
明美 いくよ、言えよ、絶対言えよ、
陽子 ……わかったよぉ、
明美 せーの、
明美・陽子 サイトウ。あーーっ!!
間。
明美 ……は? え? どういうこと? え? だって私結婚すんだよ?
陽子 知らねーよ……、
明美 いやいやありえないって、とっつぁんはそんなやつじゃないって、
陽子 そうだよ、あっちゃんだってそんなやつじゃないよ、
明美 こんなとこまでかぶせてくんなよ……、
陽子 私だってやだよこんなの……、
少し間。
陽子 どうすんだよ。
明美 どうするったって、別れるしかないでしょ、
陽子 だよね……。
明美 ……くそ、悲しいの通り越してムカついてきた。
陽子 私も。
明美 ちょっととっつぁんに電話するわ。
陽子 おう、途中で私にも代わってくれよ。
明美 ああ。
明美、電話をかける。
明美 ……もしもし、とっつぁん? ……うん、あんたにききたいことあんだけど。……あんた二股してるよね? ……「え?」じゃなくて、ヨウコと二股してるよね? ……こっちは証拠があがってんだよ。騙しやがってさぁ。クソがよ! ヨウコに代わるわ。
陽子 あっちゃんさぁ、マジがっかりだわ。二度を顔見せんなカスが。あん? 誰じゃねえよ橋田陽子だよ。びっくりした? まさか私がアケミと知り合いなんて思わないもんね?……あん? うるせえよ、失せろ、バーカ!(明美に電話を渡す)
明美 お前との結婚なんかこっちから願い下げだからな! 二度とそのツラ見せんじゃねえぞ!(電話を切る)
ひどく落ち込んでいる二人。
明美 あーくそ!
陽子 くそっ……。
明美 ほんとくそだ……、
陽子 くそっ……別人だった……、
かなり長い間。
明美 ……うん?
陽子 私の彼氏じゃなかった、
間。
陽子 私の彼氏あんな声とか喋り方じゃないわ。全然違う。
間。
陽子 え、あつとってどんな字?
明美 重篤の「とく」に北斗の「と」。
陽子 あ、私の彼氏、「あつい」に「ひと」。
少し間。
明美 てめ、
明美、陽子を殺しにかかる。
陽子、必死の抵抗。
そこに電話の着信音。
明美 とっつぁんからだ!
明美、電話に出る。
明美 もしもしとっつぁん? ごめんごめんごめん、違う、さっきの違う、全然ほんと違う、ね? うん、別れない、違うんだよ、とっつぁん、とっつぁーん!
電話は切れる。
陽子 なんだって?
明美 もう二度と会わないって。
陽子 だろうね。
明美 殺す、
明美、殺しにかかる。
陽子、必死に抵抗して距離を取る。
明美、また殺しにかかる。
陽子、必死に抵抗して距離を取る。
明美、いったん奥へ行き、包丁を持ってくる。
明美 マジで殺す。
陽子 タイムタイムタイム、落ち着こ、落ち着こ。
明美 落ち着いてるよ。
チャイムの音。
明美 うっせえ! 殺すぞ!
陽子 ユウ君じゃないの?
明美 そうだ、あいつも問い詰めなきゃいけないんだ。
陽子 待って待って。
玄関へ去る。
明美の声 ユウ君さぁ、お前高校んときハシダヨウコと付き合ってたらしいじゃん? えぇ? 二股だろうが二股。おい、知らねえじゃねえんだよ! 本当のこと言うまで、この家入れねえからな! 入ってきたら刺し殺すからな! わかったな!
明美、戻ってくる。
陽子 アケミ恐いよ。
明美 うっせえ、ユウ君に裏切られて、とっつぁんにも振られて、全部てめえのせいだからな。ヨウコを殺して私も死ぬ。
陽子 落ち着けって。
明美 ついでにユウ君も殺す。
陽子 ユウ君は関係ないじゃん。
明美 あいつは私を裏切ったんだよ。
陽子 待ってって、ユウタ君は巻き込まないで。
少し間。
明美 ユウタ君?
陽子 なに。
明美 誰ユウタ君って?
陽子 は? さっきから話してんじゃん。同級生だった堂本ユウタくん、
明美 は?
陽子 え?
明美 ユウキ翔平くんでしょ。
陽子 誰?
明美 え?
やや間。
陽子 え、あの、明美だよね?
明美 明美だよ。
陽子 だよね? 工藤明美だよね?
明美 え?
陽子 え?
明美 中田明美ですけど。
陽子 ……。
明美 え、ハシダヨウコだよね。
陽子 うん、橋田陽子。
明美 洋服の「よう」に子供の「こ」でヨウコだよね?
陽子 え?
明美 え?
陽子 太陽の「よう」……。
明美 え、西高だよね?
陽子 東高。
間。
なんか、かなり気まずい二人。
照明が落ちていく。
明美はとりあえず突きつけている包丁をおろす。
二人とも、「あ、あ」などと言いながら、会釈。
二人はどうしていいかわかならず気まずいまま、ゆっくりと照明が落ちていく。
――幕
作・小佐部明広



